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(はっきりしない、



意味に犯されすぎて、雨、
ちょっと、
降ってね、水たまりにきららの雲、
写るまで。でも、
像にも? 犯されちゃわないで。なんだか、
わからなくって、言葉……、意味でも像でもない言葉って、なに?
それを、ほんとに、
探してるんだろうか、……


乗らなかった電車が疾走していた田圃のあたり、
あそこで激しいほど赤い日の出を見たことがあって、(いけない、
   懐古に、懐古ふうの口調に陥っては、いけない……)、………
こんなに離れたところで「わたし……」と口から音を出す


口から出す、音、だった、「わたし……」って。わ・た・し、のことでなど
なくって。


まず、音。
そして、あとのすべては…………、だったのだ。…………、だ。


…………、だ。


たくさんたくさん親しんだ木の実や、葉や、花々の名称を出すな。
小川の音を出すな。
小川を夕方、暮れていく中でいつまでも見ていがちだっただろう?、流れが
闇に紛れていく、あれを、描こうとはするな。
ときどき、ほんとうの暗黒のなかにいてしまうことがあって、
体と外との区別がつかなくなってしまうのだった。
過去形で語れるのは幸せ、波音、遠い日々の浜辺で聞き収めたものが、
過去形の中でその暗黒と交じりあって、とろりとするようで。


世に生きるにはそれなりの顔を持たねばならないのにわたしには
顔がなく、(だって、小川の夕べの闇に吸われてしまったのだもの、)
なにをしてもわたしは
まっとうには見定めてもらえなかった。(微妙ナ人ヨ、アナタハ、他人ノ
網膜ニ写ラナイ、網膜ノ網ノ目ヲ、アナタノ情報ハ通過シテシマウ
カラ。)


カラ)。


     ………響き、消えていってしまう語尾の音のいくつか
            見えないなにかが降り続けている
              雪と呼んだら、間違いね、    でも、
                音少なく世界の底へと落ちていく
                   軽い、軽い、雪 様の、もの



(ここらあたりは、ほんとうに、ひとりだ、
(だれにもわたしは、見定められないでいて、ほっとりと、
(道端に立っているだけだったり、する。こころあたりは、ほんとうに、
(ひとり、……



わたしの体と心に意味がないのはもうわかっているから、
原子はわたしを解放せよ、(意識現象? 還元ばかりするな、言葉に)、
武器は、
けっきょく、「いやだ」、だろうか、それしか、ないか、


      「いやだ」、
      「いやだ」、
      「いやだ」、



(ここらあたりは、ほんとうに、ひとりだ、
(わたし、と口から音を出すと、蹴り返されて、もっと、ひとりのほうへ。
(自分自身だって、見定めてないさ、もう、自分なんて。
(けれども、溶けてもいないし、紛れてもいない、
(はっきりしない、道端かどうかも。
(前は、道端と思っていたんだけどね。立っている場所を。
(はっきりしない、道端かどうかも。いまは。
(せめて、と思うけれど、
(立っているのかも、もう、
(はっきりしない、
            ………





「ぽ」190 2007年7月

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