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こんな微妙なつきあい方で



近所をふらついているネコに聞いた話
ネコだけの国がそう遠くないところにあるんだって

そこではネコがじぶんでネコ缶を飼いにいく
ずらり並んだ袋や缶を
うっとり陶然
眺めわたして
グルグル
むにゃむにゃ
目を見開いたり
細目にしたり
鼻をくんくん
尻尾をぺたぺた
腕組したかと思うと
器用に後足で立ち
これにしようか
あれにしようか
一大思案

なるべく安い缶を買うようにしがちな
人間のご主人様とはちがい
なんせ自分が食べるんだからと
三毛のタマは
「ゴージャスな本カニ入り+トリ特上とろーりスープ味」の缶
黒毛のターシャは
「エンガワ添えうなぎ白焼き+またたび和えトリフ」
キジ毛のポンはいつもどおりに
「マグロとカツオやわらかブレンド」
けれど
「チーズ海苔サンド極薄かりかり揚げ」のもう一缶も加え
トラ毛のチャンチャは
「丸ごとイワシすり身スティック入りのうっとりポーク味ゼリー」缶
白毛のごろちゃんは
「楽しむ食感!ぶつ切り切り落とし風味付きマグロ」

さすがにちっちゃな手なもんだから
せいぜい三缶抱える程度で
あのネコこのネコ
すぐにレジに直行らしい

そんなネコだけの国があるんだって
近所をふらついているネコに聞いたけれど
わかった気がしたんだな
ネコもユートピアを夢見るんだって
のんきにふらついているような連中も
こんな天国を夢見て
なんとか
しのいでいるわけかって
ニャアとかミャアとか言って
人間が出してくれるエサの味に
かろうじてありついているありさま
ネコだけの国が遠くないところにあるなんて
よく言うなあ、まったく
はるか遠くにあるらしいと言わないところが
連中のほこりなのか
ぎりぎりの持ちこたえなのか

そんな国あるわけないだろと即座に言わないぼくも
やさしいんだか
いやみなんだか
馬鹿にしてるんだか

そこらをふらついているネコ相手にさえ
こんな微妙なつきあい方で





「ぽ」192 2007年7月

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