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海から特攻機はうしろ向きに飛び出して空に向かい



特攻機が洋上で米軍艦に体当たりしていくフィルム
あるいは被弾して
燃え上がり 海に落ちていくさま

ひさしぶりに見ていて
悲惨という思いがなかった
過ちだという気もない
勇猛だとは思わない

次々と特攻機が落ちていくフィルムは愛である……
と言ってみる
と呟いてみる

つよい映像だとは言える
生きている核心を衝いてくるから
なんでもないわたしの
なんでもない時間時間を生きるのが
わたしには
なんでもなくなくて
楽じゃない
そういうわたしの核心を
衝いてくるから

つぎつぎと特攻機の落ちていくフィルムは
なんでもなく ない
特攻機そのものが人で
翼をもがれたり 炎を吹いてキリキリ回転していると見える
あれらはもう 飛行機じゃなくて
人、人、人、
どうにもならなくなった人、人、人、
にっちもさっちもいかなくなって
そうして空に飛び出したものの
空でもどうにもならない
落ちたってどうにもならない
海の中でもどうにもならない
死んだってどうにもならない
どうにもこうにも
なりようがない……

もう少し
特攻機の落ちていくフィルムを 考えなしに見たい
言葉なしに
見つめ込みたい
悪い 愚かだ 残酷だ 馬鹿だ といった言葉なしに
見つめる
ヴィデオにとったので くり返しくり返し見る
見続ける
あの人たちの終わりを もっとよく
見ていたい
ただ見る
見続ける

あの人、人、人、は哀れ ではない
わたしは哀れではない のではない
この国の人間はいつの時代でもきっと同じ行動をする
見たこともない平家物語の時と場
太平記の時と場
戊辰戦争の時と場
読んだ物語や挿絵を思い出して想像する
この国の人間はいつの時代でもきっと同じ行動をする
あとは頼んだ
おれの分まで幸せにナ
妻子の面倒を頼む
先に逝って、あの世で待ってるゼ
だいたい同じことを言って あのように自分の体を殺し
敵の体を殺す あるいは殺そうとする
敵の体だって死ぬのだヨ
作戦がうまくいこうがいくまいが
死ぬ敵も 目を潰す敵も 破片で脊髄をやられる敵もいる
この国の人間はいつの時代でもきっと同じ行動をする
特攻隊だけではない
特攻隊だけではないどころでは
ない

ヴィデオを戻すと
海から特攻機はうしろ向きに飛び出して空に向かい
機体を包んでいた炎もすぐにおさまって
無事にうしろ向きに飛んでいく
飛び続ければその機はまたニッポンへ帰ってしまうから
帰ってしまえば
また (どんなかたちであれ)
べつの特攻生活しか待っていないのだから
わたしはそこでヴィデオを止めて
特攻機を空に浮かべておくのだ
行かず 進まず
戻らず 帰らず
そこに
停止し続けるということを思え
そういうことを
思わないのか
社会は人、人、人、をとにかく行かせようとし
社会は人、人、人、を戻らせようともするから
行かず 進まず
戻らず 帰らず
そこに
すっかり止まり続けろ、とにかく
止まり続ける
ということを思わないのか
思う力がないのか

誰にだか
つぶやいているようで
いよいよこころして
ヴィデオを止め
特攻機を止め
止めたままに
しておく

止まり続ける
ということを思わないのか
思う力がないのか

思え






「ぽ」79 2004年9月

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