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宇宙のめずらしい星を






わたしはときどき
小文字のひと
たんなるひと

名前がひとつあって
個人史があって
経歴があって
考え方があって
感じ方があって
――そういうんじゃなくて
じんるい
じんるいの
一枚の葉

名前も忘れている
じぶんという言葉も
ほとんど浮かばない
過去も将来も思わない
そんなとき
わたしはひと
小文字のひと
たんなるひと

ほかの葉を見るとき
たくさんの葉々を見るとき
ああ風にそよいで
どのわたしも気持ちいいと思う
ああ雨にうたれて
どのわたしもすがすがしいと思う

ほかの葉が落ちても
たくさんの葉々が落ちても
まだまだ葉は出てくる
わたしにはわたしが続く
このわたしだけが
わたしなのではない
そう感じるときがほとんど

ああわたしよ
ほかの葉よ
たくさんの葉々よ
どのわたしも
この大気のなかにいたね
太陽のひかりを受け
夜の闇につつまれ
投げ出されたことなんて
なかったよね
大宇宙の一角の
めずらしい
この青い星を
楽しんできたよね
ね?



「ぽ」356 2009年6月

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