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ありがと お姉さん



そのとき花がわたしの目となって
ぼくを見ていた
ぼくもわたしもおどろいた
あたしだっておどろいた
でも雨はあたたかくて一年前がふるさとだったの?

そうね、いちじくのゼリーを食べちゃったりしていて
話がもりあがったお姉さんのお通夜
栗色のマイホームを設計してくれた は、し、づ、め、さん
やっぱりお通夜に来てくれて
六月には雨みたいなゴムの模造ハルサメなんか吊っちゃって
あたしは今夜こそいっしょに寝るわ と思った
お姉さんは死んでありがと

クルーン駅から最後の急行が出ちゃうわ
ありがと
マイホームけっきょく建てなかった は、し、づ、め、さんが
MIKETAKO って書いている文字盤のちっちゃなお時計さん壊れて
お酒にくらくらするのを見計らって
フルコート(外用合成副腎皮質ホルモン剤)をつけて
ようやく唇の乾きを治して(砂漠帰りに)

大きな蓮の茎が何本ものびるお池にぼくは誘った
腕にぼくの腕をかけてわたしはしっかりと
なおもお花は 目よ、目、あたしの目、目、目、
あたしの目的を遂げようと決意していたのですから

は、し、づ、め、さんは難なく池の中へ転がり落ちて

表参道ヒルズ、へん、○の中に参が入っている
なあに あれ? マルサン組って感じ

あたまのふさわしいところを打ってぐったりなさってしまった

ありがと 姉さん
ありがと お姉さん
みんなが寝静まった深夜にわたしは は、し、づ、め、さんを引き出して
ぼくの部屋に引き上げて
ひとりで学べる生活の刷新なんて本あたしはよく読んでいたので
ありがと 姉さん
そうしていっしょに寝たのです

八月はいつも奇妙なぐあいに五月なので
見ていたのは花
お姉さんではないでしょ?
花だった時もあったお姉さん
でももう潤わない花
ありがと 姉さん
ありがと お姉さん
あなたと毎晩寝ていて雨だったし晴れだった
むつかしいことなしよね お姉さん
わたしはぼくといつもいっしょだったかしら わからない
あなたとあたしはよくぼくを二階や三階の窓から突き落として
殺しちゃったこともあったじゃないの わたしを(ぼうや殺しは楽しい
ぼうや殺しは楽しい ぼうや殺しは楽しい)

いいの
いいの
いいのよ

ありがと 姉さん
ありがと お姉さん

は、し、づ、め、さんは代用品で
わたしとかは不良品
お姉さんはいなくてもよかった
なのにいてくれて死んだからありがと

ありがと 姉さん
ありがと お姉さん





「ぽ」119 2006年8月

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