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打ち寄せる波の音が続いている



打ち寄せる波の音が続いている(ような)のに
             どこに波は当っているのか
近いところに思えるのに
                                耳は不確かで
        飛沫もときどき首筋や手の甲に届いてくる(ような)気がするのに
         首筋にてのひらで触れてみても濡れているわけでもない(ようで)
          濡れていないと感じるだけのことでほんとうは濡れているのか
                  ひとりでこんな監視所(のようなところ)の
                        廃墟(のようなところ)にいて
                                  いる(ようで)
                     波の音だけは確かだと感じ続けていて
                    波のその音に存在の仕方を頼る(ように)
                               打ち寄せるたび
                                ひとつひとつ
                     存在の背を凭せ掛ける(ように)して
                   打ち寄せる波の音がときにはむしろ自分で
   自分こそが不確かな硬いなにかに打ち寄せて存在を支えてやっている(ような)
                          ふいのつよい渦として立ち
                          けれども過ぎ去りの速さに
                        渦もまぼろしのひとつのように
                             すでに翳を残さぬ影
                                  過ぎ去り
                                  過ぎ去り
                            聴いているのがだれか
                           なにが聞こえているのか
                     やはり波が打ち寄せているようなのに
                もう耳も聴かれるものもなくなってしまっていて





「ぽ」120 2006年8月

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