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きたないはきれい



人間の活動など反応にすぎない…

しらつめ草の原っぱにもう一度寝転んでいたい
ぼくがほんとうに育ったのはあそこだ
つめたいしらつめ草の
いっぱいの葉の上
あそこにだけ楽園はあった

時間よ止まれ と言っていたのは
ぼくの若い母?
ああ、みんな老いていく
ヨットは沖に泊まったままだというのに
みんな消えてしまっていく
まだまだ燃えるような日の出を見たりないというのに

どうしてこんなにひとりぼっちなのだろう
ぼくはコーラの缶を持ったまま
きたない浜の堤防に腰かけている
そうして
人間の活動など反応にすぎない…
などと呟いている

こころにはしらつめ草の原っぱ
あの葉のつめたさ
春のはじめ
地面はしずかで
ぼくはしずかに子供時代を生きようとしていた
すべてがこれからで
太陽と草と水と空気と
なにもかもがよかった

懐古はほんとうにだいじだ
感傷こそがたいせつなことだ
過去にこそ生きるために
だれもがうしろ向きに進んでいく
つまらない喩えだが
つまらない喩えこそだいじなのだった

複雑なのはわかっている

複雑な中を
どうシンプルに生きるか
なのさ
浜のきたなさがうつくしいことに
そろそろ だれか気づくかな

きたないはきれい* などと
うわっつらに引用したいのではなく

ほんとうに
きたないはきれい
きたないはきれい




*シェイクスピア『マクベス』





「ぽ」125 2006年8月

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