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羊敷布(ひつじしきふ)
ゆうべの羊が、と あなたはシーツにころがした。首のない女のよ
うに、だれかがうなずき、その数だけ、庭に鳴き声がおりてゆく。
ひきのばしたシワのてまえで、彼女は瞼にたくしこもうとするのだ
った。やわらかな口先が、あちらのような湿度にむけて、結露をつ
なぐ、ふと、こぼれる。あなたは彼女のように彼らのことをおぼえ
ている。外は柵のようにいたいたしいと、指がもたげた。わたしの
肌、わずかにささくれ、なまあたたかさに、安堵していたのかもし
れない。ここには月明かりがたりなかった。とざされた街灯に、雲
のあふれる、だれかの声が、みうしなったと、まだらな影をひきず
っている。では、そのことではなかったのですね。わたしはシーツ
をにぎってみる。その回数だけ、首のうらにしこりがのこる。羊を
かすめ、男をまたいで、女は窓、拭き取ろうとするのだった。眠り
ではない口の奥で、ひとしきり鳴き声をつむってみる。もどかしい
線、うやむやにするかぎ裂き、あなたはわたしのように、明け方を
とりちがえることもあっただろう。はっきりとした声が、女をみつ
める。うしなわれた肯定を、郊外に、やけに明るい場所へ、投げい
れること。肩のつけねがどこかでまたたき、這いあがる。蹄のよう
な割れかたが、枕ちかくににじみだす。起きなくてはと、鵺のゆき
かうしじまをよこぎり、あなたはふるえる舌先を、彼のようになつ
かしむ。おもいだせない羊をころがす、ぐらぐらと結束する首のた
めに、窓は代用をつぎはいでいた。充足のあとずさる、あとすこし、
とわたしはくるまる。鳴けない口が、庭にきしんだ。
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