[ NEXT ][ BACK ][ HOME ][ INDEX ]




公園



空になった視線が、と口の先につづりながら、女は転がるものを聞いていた。とてつもなく増えてゆく、反映だったか、反響が、真昼を照らしているのだった。いくばくかのささくれが、こだまのなかでめくられる。いくつかの眼差しが、街街だったか、まがった箇所からうかがうようにとじていた。この角度には容赦がない。女はひらいたものを差し出してみる。
木陰につどうようにして。鼓動のさなかに距離がふさがれ、彼らは彼らを見かけることが。公園、という文字が首をふっては押し出される。樹々が交互にざわめいた。肯定だったか否定だったか、弓のような感触だった。すぐさま忘れ、思い出せない、あいまいさに張られていた、弦がうなずくように割いてゆく。彼らは彼ら、誘うふりのなかでいいよどむ。
空き地のようなささやきが、ひときわ彼女を連れ出すのだった。縁をつけるでも、もたれるでもなく近づくこと。男は面影を求めるでも、立ち去るのでもなかったから。音色であった弦の先から、つがいのような場所がはじかれた。郊外であったといっていい、おちあう公園はどこでもあって、ここではなかった。男のように首をかたむけ、おおむねの四角さについて踵をかえす。何通もの、ひとつの楽譜が喉にくいこむ。
耳のらせんがのびるだろうか。はがれていた、はいだことが澱のようにしずんでは、男の痛みを見にくくした。口のあわいになでてはひっかき、上澄みだけをもらしている。彼はベンチに腰掛けるだろう。かるくなった身体の数だけ、砂のような時刻がくずれてゆく。日々の街、街の日々が葉末にきしむ。謎のように待ちながら、男は予感をうずめている。
枠のような響きが答えることが。無言のなかで、わたしたちは意味をうしなう。喧騒を折れまがる、残り香のような片側が澄んでいた。共鳴する、しない攪拌が切り口なのだ。まざることのなさ、うらがえしてはかわいてゆく。空白をうがつのはいつでも付着、だったから。声を発し、席をたつのはわたしたち、であったのか。奏でていた、枝枝にかかった余韻を見つめる。西陽のしずむ、その先々へ、かつての弓矢が中途にまぶしい。
             2002.3.14(thu).




[ NEXT ][ BACK ][ HOME ][ INDEX ]