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遠響



ちいさいものがたまってゆく。そんな「が」のあたりで男はつぐむ。受け身の二乗が入れ子のようだ。まあたらしい亀裂、吹き込んでは反射だった。わたしはかれを想うだろう。うろという場にくぎづけの、視線のくだが白濁する。
楔のようなすきまについて。みがくことはなくすことだ、女のそぶりが剥離をうながす。ながれる果てにふれただろうか。中継点はなめらかすぎた。「だが」と「そして」がつながらない。あなたは時折、再会のようなにおいがする。
木陰のようなほねだった、たおれることのない屹立だった。からっぽの手前でこごえている、男のかたちがめまいをわかつ。断定からすりぬけた、かの女の色をたぐりたがる、わたしはながさを憎むものだ。
いないものをかぞえている、空にくるまる近さがある。ひもとかれた地図だった、鏡のような緻密さだった。「わたしはかれをしんじなかった、かれはわたしを」。破片のこだまが色をうがつ。だれでもなさを傷つけたがる、二枚の舌をふさぐこと。
うすい空があなだった。饒舌なまでにすいこまれ、反復のさなかにとぎれるもの。寝そべるような区切りから、枝々をつたう嘘がある。途方もなくかけらをふみつけ、女はかおりをもぎたかった。こもれびにも似た、はざまがいつしからせんになる。
おきわすれた標識にて。吐息のような誤謬だった、かさなるような反転だった。あなたがかの女を、かれがかれらを、そんな「が」のふるえる場所で、入れ子が軒並みひらたくなった。ふさいではひらかれる、男は樹々に出会いたくなる。
おおきいものがたまってゆく。鏡はいくえにも距離だった、とても亀裂だったという。刹那のあおが分かれない、ぶれた木陰がなつかしくなる。「〜から」あなたへ、わたしはたたずみたかったのだ。
能動によせて口づける、遠いひびきがやってくる。


※初出『詩と批評 ポエームTAMA』107(発行・編集 池田實氏)




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