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石明かり



ぬるい気候の夜だった。ゆくえの近くで距離をあがない、石のひと
つを踏んでみる。彼はとうにやってきては、意識の一端をにじませ
ていた、から、わたし、あとずさり、するようにしてまたぐだろう。
舗道はずいぶんでこぼこしている。街灯のあかるさでやましくなる
ので、とおざけたのは誰であったか。
彼女の記憶が夜更けをなぞり、ゆえにべつの明日にぬりこめられる。
あせばむ男がまあたらしく、ぬらりとひかり、さってゆく。もどっ
ては? わたしは夜空を容赦しない。口数のたりない街路樹だった。
うめつくすにはとてもたりないので、つかれた樹々。とぎれた女が
いとしくなる。
彼の記録はゆるがずに。たゆたう明かりがうるさかった。ぶれては
もどり、女とちがったほうへ折れる。舗道はここでまがっていたの
か。しばたく眼の、そのまなうらで、わたしだった可能性がすれて
ゆく。彼女の亀裂が明確になり、笑うようなつまずきでいっぱいだ。
ちかづくものが距離をつくる。
気候にあかるさがましてくる。道のひとすじが声をあげ、彼らのゆ
るさを、そのうつろいを容赦なくてらすだろう。から、わたし、釘
づけになり、くらさにそってみちるのだ。あるいはでこぼこがひき
とめる。街の灯が、またたくほどにやわらかい。ふるえるかたくな
さに眼をそむける。
女の口ぐせが夜露をたどり、べつのあたたかさに、つめたさにふれ
てゆく。舗道のはてがゆきかうので、わたしはなんどもやってきた
のだ。問いのような空にうかぶ、彼の樹木はなまめかしい。たりな
いことが、おもてをあげてはあなたをみつめる。宵のはげしい葛藤
だった。くずれたことがもどってくる。明日のふちを照らすもの。







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