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窓辺にて。



会話が外にもってゆかれた、のでささいな描写がはじまっていた。
彼の動作ははてしもなく、べつの明日にくくられる。すりぬけては
つどうから、かつての置き場がずれるのだ。次のことばを歩くよう
に待っている、男の空が雲にちぎれる。
かたずをのんで私たち、外気にあたろうとするのだった。図面のな
い地図だった。ふるえることのない矢先だった。女のみがく窓はど
れもあざやかで、くもり空さえ新鮮だったから私たち、日々をむこ
うで区切るのだ。居心地のよさげだった部屋を閉めた。沈んだ表情
が対話を忘れる。
道におちた会話をひろっていたのだと、あなたはかつておとずれた。
旅の先々でほうばるように、次と次をつないでゆく。はがすことで
精一杯の、彼女は待つとはいわなかった。ゆくえのあいまにこすれ
る窓。私はきっと帰るだろう、彼らは雑踏よりももどかしい。灯り
のついた家をすぎる、あなたの姿がうつらない。
窓の外だけが人の行き来をきいている、のだと。はなやいだ景色が
たわんでいたのでつまもうと。真似ては男のまなざしだった。こす
れる視線がひとときとまる。昨日の区別がぬけてゆく、部屋はどれ
ほど堅牢だったか。はなれたものがやってきては、出かけるために
足をおさえた。空が明日をとどめている。
明るいことばがさしこまれ、他人の顔をふりむかせる、そんなこと
があってもよい、から私たち、会話を中断するのだった。切りとら
れた声があり、霧散してゆく空があった。部屋をあかずにながめて
いる、女は帰ってくるとはいわなかった。今日の置き場がかたむい
ては、彼らの足踏みが消えてゆく。ひびきのなかで窓がもどった。







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