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腕の枕



あなたをねむりながら、嘘をかきあつめ、今日をかさねる。あえか
な酸っぱさがあり、腕のまくらがいたましくなり。すこしはほんと
うがうきでることもあるのだろうか。昨日がよこたわり、女のかた
えでまるくなり、つめたくなり。かたい距離をあたためるようにし
て、こねられたのは影をもたない消息だ。舌のさきでころがり、な
いまぜになり、ちがったかたちを、そのわずかなずれを拒否しては、
咀嚼しすぎてつかれた口。
首筋からすべりおちた、あれはすべてのやましさで、からまるすべ
てのいとしさだったから、男はかってをひきよせるのかもしれなか
った。冗談のようにたたまれ、影はいくつもの色合いをもたげてい
た。招かれて、あなたのねむりから嘘をたぐり、同じ色合いをかぎ
ながら、いそぎすぎたほんとうを、胸のあたりで散らせていた、あ
れはやさしい他者だったからひきよせて。しびれた腕をおきざりに、
わたしはあなたをしんじることができないでいる。
かわいたうなじが喉を誤解し、誤差をかなでては、ゆめゆめふるえ
ないでくださいね。としずみがちに、だれかをふりむくこと、制し
ていたのかもしれなかった。まなざしが痙攣しては、境界めいた振
動がつたわるので、彼女のそばで、とどまる嘘。その明日がくるま
で、無口なままの男だった。腕のまくらがはずされては、かつての
かけらがどこかできしむ。
めざめが夜の、そのあかるい部分をはぎとっては、うごめく恐怖を
やわらげる、木漏れ日のような腕だからこそ、あなたはいたむのか
もしれなかった。ぬるい温度がやましかった。浅い夢が昼にまぎれ
る、暗さとともに明るさをもぬぐっていたのでこない朝。じんじん
とうなずき、否定するまもなく降り立つのは、きっと最後の別人な
のだ。眼裏からこぼれてやまない、女の喉元にまとわりつく、行方
のなさが恋しくなる。
わたしをねむりながら、うらがえし、にがい色の気温をはずす。そ
の明日が今日をたたみ、饒舌になることがあるだろうか。ほのかな
ぬくもりが目覚めていた。しじまのような誤謬だった。わずかなず
れが手渡され、うなずく彼はしんそこ眠りを持っていたのだ。待っ
ていたのにふりほどかれるのでつかれた記憶。消息めいた追伸から、
腕のまくらが後を絶たない。







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