純情青春野郎爆進中!

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第十六話 一六年目の真実
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おかみのN 「それは、10月のある日のこと」
 ◎ガヤ。
湯前 「ホットコーヒーですね。しばらくお待ち下さーい」
マスター 「ふーっ。さすがに2人だけだとちょっときびしいな」
湯前 「お父さーん。ホットコーヒーひとつー」
マスター 「あいよーっ」
 ◎ドア開く(きっさ)
桐村 「マスターぁ」
マスター 「あぁ少年。はやいとこ着がえて…」
桐村 「手紙きてましたよ」
マスター 「え?」

三内先生 「はい じゃあそこまで。後ろの人はテスト集めて」
 ◎ガヤ。「終わった〜」など。
三内先生 「えー じゃあ今日はこれで終わりだ。 気を付けて帰れよ」
京野 「く〜っ… 終わったぁ」
三内先生 「あ 京野。今日部活ないからな」
京野 「あ はい。
  …部活ないのかぁ。 じゃあ久し振りに御影屋でも行こっかな」

京野 「あれ?『本日休業』?」
鳥居 「みたいだよ」
京野 「あ 鳥居先輩」
鳥居 「桐村からは何も聞いてないんだけどなぁ」
 ◎ドア開く(きっさ)
高須 「あれ? 鳥居くんに京野さん」
京野 「あ こんにちはー」
鳥居 「休業って… 今日 定休日じゃないですよね。 何かあったんですか?」
高須 「う〜ん… 何かあったって言うか 何て言うか…」
湯前 「あ、鳥居くんと和ちゃん。入る?」
京野 「いいんですか?」
湯前 「うん。コーヒーぐらい、ごちそうするわ」

京野 「旅行?」
鳥居 「マスターが?」
湯前 「うん… さっきね…」

 ◎回想シーン。
湯前 「お父さん、その手紙だれから?」
マスター 「ふんふん… ふん… ほ〜っなるほどね。
  えーっと、知賀、少年。悪いが今日は店閉まいだ」
湯前 「えっ?」
桐村 「どこか行くんですか?」
マスター 「うん… えーっと…3時半集合!?
  あーこりゃ急がなきゃ。悪い知賀、店閉まいの方頼んだ」
湯前 「どこ行くの?」
マスター 「横浜」

鳥居 「横浜?」
湯前 「うん… それで、荷物まとめて急いで出てっちゃったの。
  だから詳しい事も聞けなかったし…」
桐村 「一泊二日なんだってさ」
京野 「一泊二日?ってことは、今日先輩一人なんですか?」
湯前 「まぁね。だから皆にいてもらってるの」
京野 「夜は…?」
湯前 「友達が泊まりに来てくれるって。お父さん いいって言ったし」
京野 「ふ〜ん」
高須 「さて… 知賀ちゃん、悪いけど僕はそろそろ…」
湯前 「あ はい」
桐村 「あ そっか、高須さん今日バイトの日じゃないんでしたね」
高須 「うん。じゃあ」
一同 「さようならー」など。
湯前 「あ そうだ。2人にもコーヒー淹れるね」
京野 「あ 先輩… あたしはちょっと…」
湯前 「あれ? 和ちゃんコーヒーだめなの?」
京野 「ええ…まぁ」
湯前 「わかった。じゃ紅茶いれるね」
京野 「すいません」
桐村 「しっかし… マスター、横浜に何の用なんだろ?」
蛍原 「うちに行くとか」
一同(桐・鳥・京) 「えっ!?」
京野 「ほ…蛍原さん!? いつの間に…」
蛍原 「さっきそこで高須に会ってね。でついさっき来たとこ」
湯前 (少し遠くから)「あ 蛍原さん。コーヒーいります?」
蛍原 「あ うん。ありがとう。 で、マスターが横浜行ったんだって?」
桐村 「あ、はい」
蛍原 「何でだろーねぇ…」
鳥居 「中華街で買ったあのポパイのほーれんそうの味が忘れられない!…とか」
桐・蛍 「それはない」 京 「それはないです」
鳥居 「しくしくしく…」
桐村 「手紙見て出かけたんだから… なんだろうなぁ」
蛍原 「そういえば、一泊って言ってたけど、どこ泊まるの?」
桐村 「え? あ『みなと』です。『民宿みなと』。」
蛍原 「『みなと』?」
京野 「って、部活の夏合宿で泊まったあそこですか?」
桐村 「そう」
蛍原 「あぁ… あそこね。いいとこだったなぁ」
鳥居 「そうか… それか」
桐村 「え?」
鳥居 「あの手紙は『みなと』からだ。んで、マスターはおかみさんに会いに行った、と」
蛍原 「まさかぁ」
鳥居 「おかみさん、夫はいないみたいでしたし… いやはや」
桐村 「いや おい鳥居、それはシャレにならないからやめとけ」
鳥居 「やっぱ無理があるかな」
湯前 (少し遠くから、だんだん近付いて)「そりゃそうよ〜。いくらなんでもそれはないわよ」
 ◎飲み物おく。蛍原「ありがと」 鳥居「ども」 湯前「はい紅茶」 京野「あ すいません」
桐村 「う〜ん… どこ行ったんだか」
蛍原 「手紙ってのはないの?」
桐村 「持ってったみたいで…」
蛍原 「そっか… (コーヒー飲む)ゴホッ」
桐村 「どうしたんですか?」
蛍原 「このコーヒー… しょっぱい」
鳥居 「えぇっ?」
湯前 「あっ… お砂糖とお塩間違えちゃった…」
京野 「せ〜んぱ〜い…」
湯前 「ごーめんごめん。もう一杯淹れてくるね」
桐村 「…なんか…」
湯前 (少し遠くで)「あーっこぼしたーっ!」
桐村 「…いつにもましてそそっかしいな、今日は…」

 ◎虫の声。
響 「いいお湯でした〜」
湯前 「はーい おそまつさま。 …って響ちゃん… なにそのパジャマ」
響 「あぁこれ? “ふくろうパジャマ”。懸賞であたったんだ〜」
湯前 「へー」
響 「で、知賀」
湯前 「ほへ?」
響 「キミは、誰が好きなのかな?」
湯前 「えっ?」
響 「桐村くんに鳥居くん、高須先輩に蛍原先輩。思い当たるフシはたくさんあるんだけど」
湯前 「なんのこっちゃ」
響 「とぼけてもムダよ。 あ でも知賀って年上よりは同学年って感じよねー。
  ってことは桐村くんか鳥居くんかぁ。 どっち?」
湯前 「はい!?」
響 「あたしが勝手に決めるわけにはいかないでしょ」
湯前 (ボソッと)「決めてるじゃん」
響 「何か言った!?」
湯前 「いえいえ なんでもありませんよー」
響 「まったく… で、話戻すけど、誰が好きなの?」
湯前 「なんかさ、修学旅行の夜って感じだよね」
響 「話そらすなっ! ほら、言えばラクになるぞ〜?
  とりあえず、“好きな人”ってのはいるんでしょ?」
湯前 「えーっとね…」
響 「言っとくけど…『みんな好き』とかそういうのナシね」
湯前 「あれ?」
響 「特別な感情を抱いている人は?」
湯前 「…えーっ」
響 「うりうり」
湯前 「え〜っ」
響 「…ふ〜っ。 やっぱ知賀からかうとおもしろいわね〜」
湯前 「えっ?」
響 「顔、真っ赤よ」
湯前 「え〜っ」
響 「ったくこの人はぁ。こういう話になると、すぐこれだ」
湯前 「そんなこと言っても〜…
  じゃあ、そういう響ちゃんはどうなのよ」
響 「あたし? あたしは… 知賀のお父さんとか」
湯前 「えぇっ!?」
響 「冗談よ」
湯前 「…ひびきちゃ〜ん…」
響 「ふぁっはっはっはっ。キミもまだまだだね」
湯前 「わかったわよ。わかったから、髪なんとかしなさいっ」
響 「あんた母親みたいだねぇ」
湯前 「そう?」
響 「うん… え 髪? あっ、お風呂場に櫛おいてきちゃった。とってくるね」
湯前 「あ うん」
 ◎響 去る。
湯前 「ふ〜っ やれやれ…」
鳥居の声 「あの手紙は『みなと』からだ。んで、マスターはおかみさんに会いに行った、と」
湯前 「あーっもう! 変なこと思いだしちゃった…。
  …お父さん、どこ行ったんだろ? 電話ぐらいくれてもいいのに…。
  お父さんがおかみさんに会いに、か…。」
響の声 「あんた母親みたいだねぇ」
湯前 「…お母さん、か…。
  あたしが小さいころ離婚したって言ってたっけ…。
  どんな顔だったかなんて、覚えてないや…」

高須 「へ〜… そんな話になったの?」
桐村 「そうなんですよ。鳥居のやつが変なこと言うもんだから…
  で、気になったことがあるんです」
高須 「え?」
桐村 「…聞かない方がいいことなのかも知れないんですけど…」
高須 「 知賀ちゃんの母親のことかな?」
桐村 「えっ」
高須 「でしょ?」
桐村 「…はい…」
高須 「まぁ、僕も詳しいことを知ってるわけじゃないんだけど…
  知賀ちゃんが小さいころ、蒸発したらしいんだ」
桐村 「いなくなったんですか?」
高須 「15年前っていったかな?」
桐村 「15年前ってことは…」
高須 「知賀ちゃん一歳」
桐村 「一歳ぃ!? そんな小さい時にですかぁ!?」
高須 「うん… だから、知賀ちゃんはけっこう気にしてるみたいなんだ。
  一歳の子供をおいて出てったんだからねぇ…」
桐村 「はぁ… なるほど…  あ、ありがとうございました」
高須 「いや、こっちこそわざわざ電話してもらっちゃって。ありがとうね」
桐村 「あ いえ。 じゃ、失礼しまーす」
 ◎チーン。
桐村 「……母親か……」

 ◎ドア開く(きっさ)
マスター 「ただいま〜… あ 知賀。なんだ、もう起きてたのか。 友達は?」
湯前 「さっき、帰った」
マスター 「なんだ、ゆっくりしてもらえばよかったのに。
  まぁいいか、さーって荷物を…っと」
湯前 「…お父さん、おかみさんと会ってきたんでしょ?」
マスター(少し遠くで) 「んー? あぁ、会ったよ。元気そうだった。知賀たちによろしくってさ」
湯前 「…」
マスター 「(少し遠くで)ん?(だんだん近付き)どーした知賀?調子でも悪いのか?」
湯前 「ううん(否定)… 大丈夫」
マスター 「そうか? あんまり無理するなよ?」
湯前 「…お父さん… ひとつ、きいていい?」
マスター 「ん?」
湯前 「お父さんは… 再婚とか、考えてないの?」
マスター 「えぇ?」
湯前 「たとえば… その… おかみさんと、とか…」
マスター 「…ははぁ… そぅ見えたわけか。 違う違う。あれは高取からだよ」
湯前 「高取さん? …って… お父さんの同級生の?」
マスター 「そっ。昔の仲間で集まろう、ってね。一晩中騒いでてねぇ…」
湯前 「じゃあ…」
マスター 「再婚なんて、考えてないよ」
湯前 「…忘れられないから?」
マスター 「…そうだな。 かすみのことが、まだ忘れられない」
湯前 「…どうして?」
マスター 「え?」
湯前 「…お父さんを捨てたのよ? 自分の子供、まだ赤ちゃんってのにおいてったのよ!?
  なんでそんな人が忘れられないの!?」
マスター 「…知賀」
湯前 「そんな人お母さんじゃないよ!」
マスター 「知賀」
湯前 「お母さんなんてっ!」
マスター 「知賀!
  …ちがう、かすみは俺を捨てたんじゃない知賀をおいてったんじゃない!」
湯前 「だってっ…」
マスター 「…かすみは死んだんだ」
湯前 「え?」
マスター 「15年前の10月20日、交通事故があってね…」
湯前 「え… だって、蒸発して、…離婚届けだけおいてあったって…」
マスター 「確かに言った。…傷つけると思ったから、今までそう言ってきた。
  …逆にそれが知賀を傷つけてたんだな…」
湯前 「お父さん…」
マスター 「…すまなかった。
  …今さら信じろってのも、虫がよすぎるかも知れないが…」
湯前 「ううん、そんなことない…。
  …じゃあ、お母さんは、お父さんもあたしも捨ててなんかない…」
マスター 「あぁ。…それだけは間違いない」
湯前 「そっ…か。
  ねぇ、お父さん」
マスター 「ん?」
湯前 「お母さんのお墓、どこにあるの?」
マスター 「え… そんなに遠くないが」
湯前 「行こっ。 お母さんに会いに」
マスター 「え…」
湯前 「お店開くまでまだ時間あるし。 ね?」
マスター 「…強いんだな、知賀は」
湯前 「うんっ。
  だって、お父さんとお母さんの子だもんっ♪」

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