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         アカミトリ、にっぽん語の思い出と、赫々たる道楽文芸のために、
          二〇〇三年七月



ひぐらしやわれに急ぎのことありて声降る木々も残しゆくかな

驟雨過ぎひかりの満てる花の園思へば不遇も花にあらむや

音たかく大滝落つる冬の谷わが身ふかくに無季の岩あり

堂ふかく仏のくらき顔ありてくらきままなる笑みもあるなり

こすもすのたわたわと揺る畠辺にこころの荷またひとつ解かむや

吊り橋を支へる宙のすずしきを騒がせふいに海のかぜ来る

暮れがたの冬浜なべて墨色に沈みゆくかな生くも逝けるも

ふぶく浜見むと来たれば薄墨の海にはげしき舞ひのさくらや

あぢさゐの傾るるごとく咲き闌くる巌の寺の昼の鐘かな

たなばたのささ竹立てる家ありて星月夜なれば願ひ澄むべし

古木立ちわれを待ちゐる山寺やさわさわと残り雪落ちきたる

山里に降り込められて見てをれば雨とは繁きひかりの流れ

遅月に守られてゆくをとめゐてその夜のこころ温かきかも

神の雨はげしくなりぬうまさけの三輪の山の端雲居降り来ぬ

青葡萄数かぎりなき成熟に向かふすがたの夏しづかなり






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