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アカミトリ、にっぽん語の思い出と、赫々たる道楽文芸のために、
二〇〇三年十一月
Aurea mediocritas(黄金色ナル凡庸)
あきらかにしりぬ、心とは山河大地なり、日月星辰なり
(道元「即心是仏」)
茄子のいろ皿の白きに染み出でて風を呼ぶらしほの白き風
春の水蛇口からさへうす桃にほたらほたらとさざなみ立つて
白樺の幹を撫でてはまた次の幹へと歩む 生きをればこそ
益なしと知つて触れゐる青ぶだう若さであれば潰しはすまじ
月明に隠すものなきこころにて第何章まで来しこの生か
草笛の響かぬ秋の川端のうちよせの音のこの細かさよ
子芋しろく凝りつつあらむといふ歌のたかし節のこころに沿ふて行きたし
不幸ひとつうららの春の式をなし黒き群れゆく野のあかるさよ
古き塔ただ立つのみにして腹の芯より秋の寂となるべし
幾十年の不遇と思ひかへしたりひとつふたつの残柿など見て
魚を採る鷺の映像さびしくて採られる魚も採る冬鷺も
野良猫の口もとわづか汚れゐて夏終はるころ生きはわびしき
朝よりのいはば空気の浅み深みその多寡こそをこころとはいふか
なすべきをもたずに家にゐる昼をうれしと思ひ菜など漬けたる
歌舞伎座に行く大伯母の振り返るさまゆらゆらと昭和青ざむ
こしかたの透いて遠のくものとなり笹舟流れゆく先追はず
廃園であるらし桃のかをりして入らぬままにそれもよしとし
魚市のにぎはひにさへ交はれぬもの猶ありて冬のはじまり
こころ進まず紙延べる手紙そのかみに秋麗と書けば澄みはじめたる
夏沢のみどりあふれるなかにしていのちの鮎の水切るひかり
たわたわと乳房湿らすやさしさか青うめの実の肌の水玉
みづな噛むはやき夕べをはりはりと西雲のゆくひろがりと居り
とり残されぽつぽつ咲けるあさがほの青より伸びる夏の残り尾
あざやかに海の色立ち下る道ただ海に出るといふ喜びに
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